グローカル=グローバル(global)とローカル(local)からの造語
国境を越えた地球規模の視野と,草の根の地域の視点で,さまざまな問題を捉えていこうとする考え方。視野はグローバル・視点はローカルに。
コロナ禍で日本の観光は一旦すべてがリセットされた状況だといえるでしょう。今から少し前の日本のビフォアコロナにおいては、全国各地で観光を活用した地方創生の取り組みが盛んにおこなわれていました。しかしながら、すべての地域が上手くいっていたかといえば、少々乱立気味で均質化した取り組みが多くあったのが現状ではなかったでしょうか。
また、LCCや入国要件の緩和によるアジアを中心とした外国人観光客、いわゆるインバウンド観光が隆盛を極め、我々日本の若者の海外旅行離れも加味し、近年の人の流れは日本から「出なくなり」、「入ってくる」傾向が加速していました。実際、観光データをみれば、旅行収支の連続黒字、インバウンド数過去最多が現状を裏付ける数字となっていました。とにもかくにも観光は日本の最重要成長戦略であることは間違いなかったといえたでしょう。
これらに対する取り組みを見ていくと、誤解を恐れずに言えば、独りよがりでニーズを無視した、短絡的な取り組みとなっていたものが多かったのではないでしょうか。そうだとそれば、どうすればいいのか?必要なことは人を惹きつける魅力的な素材、すなわち、そこに行きたいという強力な観光動機を生み出す素材の創出と有効な活用方が重要であると考えることができます。
観光を学ぶということ、そして観光に取り組むということは、まず世界を望む、すなわち全地球的な広い視野をもって、世界の優れた観光資源を学ぶことが重要であると考えます。
例えば、私の専門領域でいえば、スペインバスクのサン・セバスチャンの美食観光、フードツーリズム、最後の楽園や神々の島と称されるインドネシア・バリ島の祝祭ツーリズムなど優れた数多くある事例から学ぶことができます。これらの観光資源はいずれも、地域の日常やあたりまえの食、地域の気質、精神、風土、歴史など地域共通のアイデンティティを活かした、観光客にとっての魅力的な異なる日常を体験することがキーワードとなっています。
また観光を学ぶアプローチも様々ありますが、私が教鞭をとる「観光デザイン」という領域も、アフターコロナにおいては欠かすことのできないアプローチです。
本学の学び「観光デザイン」における“デザイン”とは単なる造形的デザインだけではなく、その前提となるはずの構想、アイデア、イマジネーション、意志、こころざし、実際のモノ、コト、あるいは行為を指します。その上で、観光というフィールドで、“デザイン”というアプローチで商品開発力、ブランド構築力、サービスおよびプレゼンテーション力を磨き育むことを目的としています。
アフターコロナの日本において、観光を再び成長最重要産業として輝かせるために、ビフォアコロナの取り組みを再検証し、アフターコロナに臨むために再構築、すなわち新たな「観光デザイン」に取り組むことが重要だと考えます。
これからのアフターコロナにとって必要なことは、今後あらためて世界への道が開かれた暁には、再び世界へ羽ばたき、交流し、優れた取り組みを吸収するツーウェイツーリズムの姿勢が必要ではないでしょうか。
“新しい生活様式”に則った観光の取り組みも重要かもしれませんが、今後の日本の観光にとって必要なことはビフォアコロナもアフターコロナも学ぶことも取り組むことの本質は同じで、その土地の人が自らアウトバウンドして、外の人と交流を持ち、誇りある自分たちの土地に人々を呼び込む観光資源を創意工夫をもって生み出しす動きこそが、地域を、そして日本の観光を再起動させることになると考えます。
世界を望み、地域を語る、グローカルな世紀とともに生きる観光デザインの世界で共に学んでいきましょう。
嵯峨美術大学芸術学部デザイン学科観光デザイン領域 小畑博正