「観光学」を学ぶ意味と「キャリア」について考える

―コロナ禍から未来を見据えて―

 


 

1.観光とは

 

 今、皆さんも大変な生活を送っていることと思いますが、観光や観光関連産業も大きな影響を受けています。観光関連サービスは人手による役務で人がサービスを実施するため、必ず接触が発生して最初に影響を受けています。

 観光という言葉は、大正時代に「ツーリズムtourism」の日本語訳として採用されました。その語源は、中国の儒教経典のうち五経の一つであり、占いの書である「易経」という書物から引用されました(注1)。

「観国之光、利用賓于王」(国の光を観(しめ)す、もって王に賓たるに利(よろ)し)(注2)

すなわち、この文章の意味は諸説ありますが、「国の光を観(しめ)す」という行為は、当時の国(当時の小さな国、今の地方自治体)が輝いているさまを見せることを意味し、それはその国の長の役割で重要ということです。

 ここ数年日本では「観光立国」という言葉が広まり、観光の重要性が説かれるようになりましたが、「光り輝いている様」を見せることが観光客をひきつけるには重要という意味です。これはまさに「観光」の言葉の意味が現代に追い付いてきたといえるかもしれません。

 いまは、コロナの影響をまともに受けていますが、観光には再生し復活する力がありました。過去50年を振り返ると、世界の国際観光客数(国境を超える観光客数)が前年より減少した年は2回しかありません(国連世界観光機関UNWTO)。2003年のSARSの流行した年と2009年のリーマンショックの翌年に新型インフルエンザがはやった時の2回だけです。今回のコロナはその際より影響は大きいと思いますが、影響を受けるのも早いですが回復するのも早いのが観光の特徴であると信じています。

 

 

 2. 観光の重要性

 

 皆さんも旅行へ行ったことがあると思います。おいしいものを食べたり、見学したり、話したりする観光は人間が生きていくうえでなくてはならないものといっても過言ではありません。「観光」は「光を観(しめ)す」ことを指しているように、輝いている姿や元気な姿を見ると楽しくなります。

 まさに「観光学」を学ぶ意味は、観光の力を存分に発揮させて人々を、地域を元気にさせる方法を学ぶことにほかなりません。特に現在は、観光地観光がメインだったマスツーリズム全盛の時代と異なり、ニューツーリズムといわれる体験型観光が主流となりつつあります。つまり、自分がしたいことを実際に行い幸せに感じて(感幸)、ヒトと触れ合うことを歓び(歓交)、そして趣味や興味があることを学ぶという人間の欲求を達成するのに欠かせないものとなっています。人を楽しませたり、幸せにすることからホスピタリティ産業とも呼ばれます。

 

 

3.観光のこれから

 

 

 さて、私の所属する流通科学大学観光学科では、8月3日(月)に「観光学科の1年生を対象としたオンライン夏休み特別セミナー『目指す進路の未来予想図〜観光関連産業からのメッセージ〜』を実施しました。4月以降、大学に1度も登校していない1年生対象の特別セミナーです。

 観光学科で学ぶ学生は他の学部や学科で学ぶ学生より、自分の進むべきキャリアや将来の目標を持っていることが多く、それがコロナ禍で将来に不安を抱くことがないように、旅行業、ホテル業、ブライダル業の3名のリーダーの方々に各産業の現状と将来について語っていただきました。

 

(株)近畿日本ツーリスト関西の代表取締役社長 三田周作氏は、「観光は、自動車産業に匹敵する経済波及効果があり、今の日本の経済の仕組みにおいて切っても切れないもの。また、人間の根源的欲求になくてはならないものであり、生活を豊かにするためにかけがえのないもの。ぜひ、自信を持って、新しい観光産業のなかでチャレンジをしてもらえたらと思います」

(株)ウエディングジョブ代表取締役、『The Professional Weddinng』編集長 石渡雅浩氏からは、「少子化で婚姻件数は右肩下がりに減少。今後はAIの進化によりビジネスの仕組みも大きく変わっていきます。しかし、どれだけテクノロジーが進化しても“共感”は人間にしかできないし、人間が生き続ける限り“お祝いごと”がなくなることはありません。皆さんには、将来も存在する仕事かどうか、を大事に仕事を選んでほしいと思います」

 神戸ポートピアホテル総支配人 伊藤剛氏からは、「この先1~2年は観光業界全体が厳しい状態だと思いますが、皆さんが卒業されるころには成長にシフトしていると考えられます。そのときまでに、できるだけ多くの人と知り合うことを心がけてください。学内外でさまざまな方々とコミュニケーションを取り、卒業後にはぜひ、観光業界、特にホテル業界に進んでもらえたら嬉しく思います」というそれぞれの言葉をいただきました。

 

 いずれのお話も、観光は日本においてのみならず世界でも重要な産業であり、いかにAIが進化しようとも“共感”を得る仕事は人間の手によるホスピタリティ精神に裏付けされたサービスによってこそ成立するということでした。

 その後、観光学科の教員全員が一言ずつ観光の科目を学ぶ意義をはなしエールを送りました。最後に参加全教員と観光学科学生が2つのコース(観光事業コースとホテル・ブライダルコース)に分かれ「オンライン交流会」を約1時間実施して交流を深めました。学生からは悩みや相談もいろいろ出て、同じ学科のほかの学生の話を聞けて将来に関する不安が解消したという声が多くありました。

 「観光学」を学ぶということは、知識を学ぶだけではなく学んだ知識や経験を活用して、いかにして観光や地域をマネジメントするかにかかっており、大学で観光学を学ぶ意味はそのマネジメント力をいかにつけるかに尽きます。

 一緒に、楽しく、観光のマネジメントを大学で学びましょう。

注1:長谷政弘「観光学辞典」同文館出版 1997年

注2:藤堂明保「漢和大字典」学研 1980年